#お役立ちコラム
リバースエンジニアリングの手順|図面のない現物から3Dと図面を復元する

図面のない現物から復元できること、できないこと
現物から起こせるのは、いま目の前にある形とその寸法、そして部品同士が組み合わさっている関係です。起こせないのは、その形になった理由です。設計上の判断は、現物に痕跡として残ります。ただし、なぜそう決めたのかは残りません。したがって、現物から引いた図面は元の設計図の再現になりません。いまの現物を測って新しく引いた、別の図面です。この線引きを先に関係者と共有しないと、復元後に「元図と違う」と指摘が出て検証からやり直しになります。
現物から起こせるもの
外形と各部の寸法(測った時点の値)
合わせ面・はめあい・穴位置など、部品同士の関係
摩耗や変形を含んだ「現状の形」
現物からは起こせないもの
設計意図(どの寸法が機能に効いているか)
公差の根拠、材質・熱処理・表面処理の指定
加工方法と加工順序の前提
「リバースエンジニアリング」は、形状の復元より広い範囲を指す言葉です。 経済産業省の営業秘密管理指針は脚注でこう定義しています。
ここでいうリバースエンジニアリングとは、製品を解析、評価することによって、その構造・材質・成分・製法等その製品に化体している情報を抽出したり、抽出した情報を使用する行為を意味する。
出典は経済産業省「営業秘密管理指針」の脚注35です。構造・材質・成分・製法までを含む語なので、形状の復元はその一部にすぎません。さらに、法制度が「リバース・エンジニアリング」と名指しで扱う対象は、実物ではなくプログラムです。文化庁は平成30年の著作権法改正(第30条の4関係)の説明で、「プログラムの調査解析を目的としてプログラムの著作物を利用する行為(いわゆる「リバース・エンジニアリング」)」を挙げています。検索結果がソフトウェア解析に寄るのはそのためです。
同じ復元でも、入力が図面やCADデータなら計測は登場せず、判断する論点も変わります(3D.Core CAD Agentが扱う領域です)。
復元の目的が「3Dモデルを作ること」になっているなら、その計画は途中で止まります。判定すべきは、現物合わせや現地確認でしか決められなかった判断のうち、そのデータを見て机上で片づいた件数です。ここが0件なら、形状の忠実度を上げても現場の仕事は変わりません。
現物から図面までの5段階と、各段階で確定する情報
現物から図面までは、計測方式の選定、計測、形状の復元、図面化・寸法の確定、検証の5段階に分かれます。段階を分ける狙いは、順番を守ることではありません。「何が確定したか」で区切ることです。工程名だけで区切ると、形状が面になった時点で復元は終わったと見なされます。基準面と許容差が決まっていないまま、図面化に入ります。そこで初めて基準が無いことに気づき、形状の復元まで戻ります。各段階に「次へ進んでよい条件」を先に置いておけば、戻る位置が1段前で済みます。

段階 | この段階で確定する情報 | 次へ進んでよい条件 |
|---|---|---|
1. 計測方式の選定 | 復元する範囲、必要な許容差、使う方式 | 「誰が何を判断するために使うか」が1文で書けている。試験計測で主要面のデータが取得できた |
2. 計測 | 対象表面の座標データ(点の集まり)と、取れなかった領域 | 主要面が2方向以上から取れている。取れなかった領域を一覧にした |
3. 形状の復元 | 面として扱える形状、実測と推定の区別、基準面 | 推定で補った領域を後から見分けられる。基準面と基準軸が決まっている |
4. 図面化・寸法の確定 | 記入する寸法値と許容差、その判断者 | 寸法1つずつに「測った値」か「機能から決めた値」かの区別が付いている |
5. 検証 | その図面とデータが実務で通るか | 加工・見積・保全記録のいずれかに1件通し、相手部品と組み合わさることを確認した |
3段目の「形状の復元」の内側では、点の集まりを面にする処理と、面を編集できる形状に変える処理が続きます。点群からメッシュへの変換はその一部です。この記事では内側に降りません(参考: 3D.Core)。
2段目の計測で手元に出てくるのは、図面ではなく点の集まりです。見た目は形をなしていても、点どうしのつながりを持ちません。そのままでは寸法を入れられません。

計測方式の選び方|対象の大きさと必要な許容差から逆算する
計測方式は、機器のカタログにある精度から選ぶと外れます。決め手は4つです。
対象の大きさ(持ち運べるか、装置に入るか)
触れてよいか(稼働中か、傷を付けられないか)
内部形状が必要か(分解できるか)
必要な許容差の厳しさ(機能に効く寸法がどこか)
この4つが決まれば、接触式・非接触光学式・X線CT・写真からの復元の4系統まで絞れます。逆に、方式を先に決めて対象を当てはめると、データが取得できない面が出てから選び直すことになります。計測そのものがやり直しです。

方式 | 向く条件 | 押さえておく制約 |
|---|---|---|
接触式(プローブで点を取る) | 触れてよい。厳しい許容差で数点を押さえたい | 面全体を密に取るのに時間がかかる。届かない位置は取れない |
非接触光学式(レーザー・パターン投影) | 触れられない。面全体の形が必要 | 対象の状態や形状でデータが取得できない領域が出る。影の面は取り直す |
X線CT | 内部形状や空洞が必要。分解できない | 装置に入るサイズの制約がある。対象を持ち出す前提になる |
写真からの復元 | 大掛かりな機材を持ち込めない。対象が大きい | 撮影の抜けがそのまま欠損になる。撮影計画が結果を決める |
計測方式は、機器のスペックから決まりません。決まるのは「復元したデータで誰が何を判断するか」が1文で書けたときです。書けない状態で計測に入ると、方式そのものを選び直すことになり、計測もやり直しになります。
取得手段は1つに固定しなくて構いません。bestatが稼働中の工場で行った実証では、工場全体の計測に点群スキャナーを使いました。一部の設備の撮影にはスマートフォンを併用しています。
本計測の前に、条件の悪い1面だけを試験計測します。 方式を選んだ時点では、それが自社の対象で成立するかどうか分かっていません。狭い、影になる、奥まっている、といった最も条件の悪い面を1つ選びます。そこだけを先に測り、データが取得できない領域を洗い出します。判定は3つに分かれます。
復元したい主要面のデータが取得できた → 本計測へ進む
主要面は取得できたが一部が抜けた → 計測位置・照度・治具を変えて再計測する
復元したい主要面のデータが取得できない → その方式では本計測に進まない
試験計測は工程の追加ではなく、やり直しの前借りです。

計測データを形にする工程でつまずく理由
計測が終わっても、そのままでは図面に使える形状になりません。止まる場所は3つです。
データが取得できていない領域が、復元したい面にかかっている
面にはなったが編集できる形状になっていない
形状はできたが基準が決まっていないため寸法が入らない
どれも「計測に戻るか、後工程で作り込むか」の判断を求められます。どの症状かを先に切り分ければ、戻る工程は1段で収まります。保留したまま作業を続けると、最後に寸法を入れる段ですべてが戻ります。
データが取得できていない領域が、復元したい面にかかっている
影、遮蔽、奥まった位置。取れない領域は必ず出ます。問題になるのは、復元したい主要面にかかっているときだけです。取れなかった領域を一覧にし、主要面にかかっているものは取り直します。かかっていないものは欠損のまま残して注記します。穴を埋めて滑らかにする処理は、計測ではなく推定です。埋めた面から採った寸法は、計測値になりません。埋めるかどうかは、その面に寸法を入れる予定があるかで決めます。
面にはなったが、編集できる形状になっていない
計測から図面までの間に、データは3つの段階を通ります。点の集まり、面(メッシュ)、編集できる形状(サーフェスやソリッド)です。3Dスキャナから読み込んだデータを2D CADで開こうとして止まるのは、この段階です。2D CADは3次元の点や面を持てないため、段階を飛ばせません。飛ばそうとすると、変換ではなく一からのモデリングと同じ作業量になります。
この段階では、3D.Core が大容量点群を軽量な3Dモデルへ変換します。専用ソフトのインストールや高性能PCは不要で、手元のPC・スマートフォン・タブレットから確認・計測できます。
形状はできたが、基準が決まっていないため寸法が入らない
図面の寸法は、基準面や基準軸からの距離として書きます。ところが現物に「設計上の基準」は書かれていません。摩耗した面や変形した面を基準に取ると、そこから採った寸法がすべてずれます。基準は形の都合ではなく機能から決めます。相手部品と接する面、位置決めピンの穴、取り付け座、回転軸。候補を挙げ、どれを基準にするかを設計・生産技術・保全のどこが決めるかまで確定させます。ここが決まらないと、形状はできているのに図面化が始まりません。
やり直すかどうかは、形状の見た目で決まりません。復元した形状を元の点データと重ね、寸法を入れる予定の面が実測に基づいているかを1面ずつ見ます。推定で補った面に寸法を入れる段になっているなら、それは計測に戻る場面です。ここで戻らずに寸法を入れた図面は、検証で必ず落ちます。
計測データの扱いを社内で詰める段階なら、対象と用途を伝えて相談できます。→ 3D.Core について相談する
寸法を確定させるのは計測値ではなく、用途ごとの許容差
図面の寸法は、計測値をそのまま書き写せません。現物には摩耗、変形、製造時のばらつきが含まれています。測った値をそのまま寸法にすると、摩耗した状態を正解として固定した図面になります。決めるべきは、その部品が果たす機能から見て、どこまでのずれなら成立するかです。つまり寸法は計測の出力ではなく、判断の出力です。だから着手前に、許容差を誰が決めるのか(設計か、生産技術か、保全か)を決めておきます。ここが空欄のまま図面化まで進むと、図面は完成しても誰も承認できません。
現物から引いた図面は、元の設計図と違います。その指摘はそのとおりです。ただし、目的が「この部品を作り直す」「この設備を改造する」なら、必要なのは元図と同じ図面ではなく、機能を満たす図面です。合否の基準もそこに置きます。
寸法は「測った値」と「機能から決めた値」に分ける
図面に入る寸法を、3つに分けて扱います。
機能に効く寸法(相手部品と組み合わさる箇所、位置決め、回転や摺動の部位)。機能から許容差を決める
形状として必要だが機能に効かない寸法(外形、リブ、面取り)。測った値を丸めて入れる
摩耗や変形が乗っている箇所。設計値を推定するか、相手部品側の寸法から逆算する
そのうえで、各寸法をどう決めたかを図面か添付メモに残します。残さないと、次に触る人が同じ判断をやり直します。
検証は、復元したデータを1件通すまで終わらない
用途を1つ決め、そこへ実際に通します。加工なら1個作って測ります。見積なら、加工業者に出して質問なしで見積が返るかを見ます。保全記録なら、既存の管理台帳に載るかを確認します。1件通れば、その図面は使えると分かります。
渡すときに添えるのは5つです。
用途
許容差とその根拠
基準面と基準軸
計測条件(方式・計測日・対象の状態)
実測と推定の区別
これが無いデータは受け取った側が判断できません。結局、現物を見にきます。
「計測値と図面の寸法が一致していること」を検証の合格条件にしているなら、それは検証になっていません。判定すべきは、その図面で作った部品や測った結果が、実際に相手部品と組み合わさるかです。復元したデータを加工・見積・保全記録のいずれかに1件も通していないなら、使える図面かどうかはまだ分かりません。
図面にない現況と向き合う仕事は、部品の再製作だけではありません。鋼橋の補修では、施工前検討を現場目線の3D活用で支える取り組みがあります(参考: 鋼橋補修の「施工前検討」を支える、現場目線の3D活用、導入事例)。
法務・知財として社内で確認しておくこと
復元の可否は、技術の判断と法務の判断が別に立ちます。ここで扱うのは後者です。ただし、bestatは法律事務所ではありません。この節で作るのは可否の結論ではなく、社内に持ち込む「確認項目」です。確認先は法務・知財だけではありません。契約を持つ調達と、データの持ち出しを審査する情報システムも含みます。まず権利の有無から確認します。特許庁の知的財産権Q&Aは、商品形態の模倣に対して取れる手段を次の順で説明しています。
まず、あなたの会社が、その商品について利用されている特許権、実用新案権、意匠権、商標権や回路配置利用権を持っている場合で、デッドコピーにそれらが使用されているのであれば、それらの権利に基づいて、輸入や販売を止めさせることができます。
これらの権利を持っていない場合には、不正競争防止法第2条第1項第3号によって、輸入や販売を止めさせることが考えられます。
ただし、同じ種類の商品が通常有する形態を模倣した場合には、この「模倣」にはあたらず、デッドコピーの製造や販売を止めさせることはできません。
出典は特許庁「知的財産権Q&A Q9. デッドコピー商品への対策」です。このページは、「自社が模倣される側」の立場で書かれています。 裏返して「復元する側は問題ない」と読めるものではありません。ここから受け取るのは、確認する権利の種類とその順序だけです。
次に、条文が対象にしている行為を確認します。不正競争防止法第2条第1項第3号は、次の行為を挙げています。
他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
同条第5項は「模倣する」を「他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すこと」と定義しています(e-Gov法令検索「不正競争防止法」)。
条文が列挙しているのは、譲渡・貸渡し・展示・輸出・輸入・提供の6つの行為です。自社の計画がどう当たるかは個別の当てはめです。同法には適用除外の規定もあります。ただし要件の判断は法務部門の領域です。ここでは「適用除外の規定があること」までを確認項目に入れます。
権利とは別に、契約が制限をかけている場合があります。 購入契約・保守契約・秘密保持契約に、解析や複製、第三者への開示を制限する条項が入っていないかを確認します。
確認する項目 | 確認先 | 確認できなかったときの扱い |
|---|---|---|
対象に特許権・実用新案権・意匠権・商標権・回路配置利用権が及んでいるか | 知財部門(外部の弁理士を含む) | 形状の把握までとし、製造と調達の判断を保留する |
第2条第1項第3号の行為(譲渡・貸渡し・展示・輸出・輸入・提供)を行う計画か。適用除外に当たるか | 法務部門 | 用途を社内に限定し、回答が出るまで外部へ出さない |
購入契約・保守契約・秘密保持契約に解析や複製を制限する条項があるか | 調達・契約管理部門 | 契約書の原本を取り寄せるまで着手しない |
復元データの二次利用範囲(社外共有、委託先への提供、転用) | 法務部門と情報システム部門 | 保管先とアクセス範囲を先に限定する |
計測データを社外に出してよいか(設備配置や他社設備の写り込み) | 情報システム部門 | 社内処理に限定するか、委託先の認証と再委託を確認する |

この表は埋めてから持ち込むものではなく、空欄のまま法務に持ち込むための表です。
着手チェックリスト
計測の見積を取る前に、次が埋まっているかを確認してください。空欄はそのまま測り直しになります。
用途が「誰が何を判断するために使うか」の1文で書けている
復元する範囲を決めた(部品1点か、組み合わせか、設備全体の配置か)
許容差を誰が決めるかを決めた(設計・生産技術・保全のどこか)
基準面と基準軸の候補を機能から挙げた
試験計測で測る「最も条件の悪い1面」と3つの判定基準を決めた
取れなかった領域と、実測と推定を区別する記録の形式を決めた
法務・知財の確認項目を表にして確認先へ出した
検証に通す1件(加工・見積・保全記録のどれか)を決めた
よくある質問
リバースエンジニアリングを始めたいのですが、何から勉強すればいいですか
始めるのは機器の操作ではなく、図面の読み方と自社製品の機能理解です。復元の質は、どの寸法が機能に効いているかを判断できるかで決まります。そこは機器でもソフトでも埋まりません。次に、点の集まり・面・編集できる形状の3段階の違いを押さえると、外注の見積や納品物の妥当性を判断できます。
外注する場合の費用と期間はどのくらいかかりますか
公開されている相場は条件の幅が大きすぎます。自社の見積の根拠には使えません。比較できる形にするには、変数を先に固定します。
対象の点数と大きさ
必要な許容差
内部形状の要否
寸法をどこまで入れるか
成果物の段階(点データ・面データ・編集できる3Dモデル・2D図面)
検証の範囲と承認者
これを書いた依頼文があれば、複数社の見積が同じ物差しで並びます。
購入した設備の図面が手元にありません。メーカーに請求できますか
まず購入契約と保守契約の条項を確認します。外形図までは出ても、内部の部品図が出ないこともあります。請求できないときは、現物からの復元へ進む前に「法務・知財として社内で確認しておくこと」の項目を確認先へ通してください。設備メーカー側にも権利や営業秘密があり、可否は個別判断になります。
3Dスキャンで取った点群データだけでは、何ができないのですか
点の集まりは、点どうしのつながりを持っていません。拡大すると隙間から背景が透け、面としての当たりも判定できません。距離は点がある位置なら測れます。ただし面上の任意の位置では測れず、断面も連続した線になりません。寸法を入れるには、面にしたうえで基準面を決める必要があります。取得データの質が低いと、一から作るのと変わらない工数になることもあります。
精度はどのくらい出ますか
機器の仕様の数値は、条件を整えたときに出せる値です。復元した図面の精度ではありません。実際の値は、計測条件、対象の状態、面の当て方、基準面の取り方の積み上がりで決まります。先に決めるのは機器ではなく、その部品の機能から見た許容差です。自社の到達点は、復元した図面で1件作って測るまで確定しません。
bestat 編集部について
bestat株式会社は、東京大学 松尾研究室発の産業用3Dデータに特化したAIスタートアップです。製造業・インフラ・土木の現場で、画像・動画・点群・360度動画など、現実空間で取得される多様なデータを高精度に3D化し、取得・生成・処理・活用までを一気通貫して支援する「3D.Core」シリーズを開発・提供しています。 https://bestat-data.com/3dcore
参考文献
経済産業省「営業秘密管理指針」|https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/guideline/r7ts.pdf
特許庁「知的財産権Q&A Q9. デッドコピー商品への対策」(更新日 2024年2月14日)|https://www.jpo.go.jp/support/ipr/qanda/q09.html
e-Gov法令検索「不正競争防止法(平成五年法律第四十七号)」|https://laws.e-gov.go.jp/law/405AC0000000047
文化庁「著作権法の一部を改正する法律(平成30年法律第30号)について」|https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/h30_hokaisei/

