#お役立ちコラム
デジタルツインの課題とは?導入が進まない5つの原因と対処法

デジタルツインには、設備の可視化や予測、シミュレーションなど多くの効果が期待されています。一方、実際の導入では、データ整備、費用対効果、運用体制、セキュリティが課題になります。
本記事では、デジタルツイン導入で起こりやすい課題と、その原因・対策を整理します。
執筆: bestat 編集部
デジタルツインの導入が進まない理由
課題として挙がるものは、言い方を揃えると5つに集まります。目的と体制、現況のデータ、実証の合否、投資対効果、データの持ち出しです。5つとも、対処の起点になるのは着手前に決めていない項目で、機材や精度の選定はその後に来ます。
この見方は、公的な調査研究とも一致します。総務省が委託した調査研究の報告書(令和3年3月・委託先は株式会社エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所)は、単純な構成であれば技術的な障壁は大きくないとしています。ただし、実用的に活用する上では多くの課題があるとも整理しています(デジタルツインの現状に関する調査研究の請負 成果報告書)。導入の効果については、同じ節に次の記述があります。
また、デジタルツインは IoT 等のテクノロジー活用を前提としたソリューションであり、導入効果はユーザー側の体制・導入方法に依存する。
次の表は、5つの課題を、検索でよく見る言い方と、対処の起点になる項目で並べたものです。
課題 | よく見る言い方 | 対処の起点になる項目 |
|---|---|---|
目的と体制 | 目的が曖昧、部門で認識がずれる、人材がいない | 形状データで置き換える判断を1つ名指しする |
現況のデータ | 古い設備にセンサーが無い、形式が合わない | いま揃っている範囲から対象を選ぶ |
実証の合否 | 実証から先に進まない、報告が3Dモデルで終わる | 合否を、置き換わった判断の件数で書く |
投資対効果 | 効果が不透明、費用を説明できない | 現地へ足を運んでいる判断の回数を数える |
データの持ち出し | セキュリティが不安、外に出せない | データを種類ごとに分けて可否を確認する |
なお、デジタルツインの定義や、メタバース・シミュレーションとの違いはデジタルツインとはで扱っています。
目的と体制が決まらない
課題の説明でほぼ必ず出るのが「目的を明確に」です。ただし、明確とは何を書けた状態かまでは示されないことが多いです。ここで言う明確とは、置き換える判断を1つ名指しできた状態です。「生産性の向上」や「現況の可視化」のままでは、実証の合否も効果の測り方も決まりません。
情報処理推進機構(IPA)のレポートは、部署や企業をまたいでデジタルツインを構築する場合、データの収集・連携がこれまで以上に大きな課題になるとしています。そのうえで、次の点を挙げています(IPA 全体最適へ向かうデジタルツイン)。
前提として、どのような価値を創出するのか、どのような課題を解決するのかといった目的を明確にすることが必要である。
部門で目的の言い方が違うとき
データを使う側と導入を進める側で認識がずれる場合、目的の文を合わせようとすると抽象語で一致してしまい、ずれが残ります。合わせるのは、置き換える判断1つと、その回数です。
使う側に聞くのは「いま何を確かめるために現地へ行っているか」です。進める側が用意するのは「その回数をどの記録から数えるか」です。回数が共通の数字として立てば、目的の言い方が違っても同じものを見ます。数字が立たないなら、その対象は困りごとになっていません。
人材が足りないと感じるとき
先に挙げた総務省の報告書は、デジタルツインの技術とその使い方を理解できるテクノロジー人材の充足が課題となる可能性があるとしています。実務では、人手が要る作業と、人手では代われない作業を分けられます。
現況のデータが揃わない
課題の一覧に必ず入るのが、古い設備にセンサーが付いていないことと、メーカーごとにデータ形式が合わないことです。この2つは着手前から分かっている条件なので、解消を目指すより、対象の選び方に反映させます。形式が揃っている範囲、すでに取得済みのデータがある範囲から選びます。
IPAのレポートは、データのフォーマット共通化やシステム基盤の整備でも、自社内での部分最適ではなく、ステークホルダーも含めた全体最適の視点で進めることが重要だとしています(IPA 全体最適へ向かうデジタルツイン)。
センサーが付いていない設備から始めるとき
センサーの後付けより先に、その設備で下したい判断を確認します。判断が干渉・隙間・配置の確認なら、必要なのは現況の形です。現況の形は、測った点の集まり(点群)や、そこから作った3Dモデルで持てます。
予測できない範囲がある
デジタルツインは、監視していない範囲の影響までは扱えません。先の総務省の報告書には、次の記述があります(総務省 成果報告書)。
デジタルツインは対象物のセンサーデータを基にシミュレーションを行うが、モニタリングされていない周辺環境との相互関係を観測・予測することは難しい。
実証から本導入に進まない
PoC(概念実証)が本導入に載らない直接の原因は、合否が「できた/できない」の判定で終わっていることです。この判定では、次の投資を決める材料が出ません。合否は、置き換わった判断の件数で書きます。
これまで現地へ行って確かめていた判断のうち、何件が机上で終わったかを数えます。0件なら、モデルの精度を上げても本導入には進みません。件数で書いておけば、何が変わったのかを1行で示せます。

着手前に決めておく項目は4つです。
置き換える判断を1つ: 「◯◯を決めるために現地へ行っている」と1文で書ける判断。2つ以上だと合否が分かれる
その判断を今は誰が、どこへ行って下しているか: 効果の分母はここから出る
合否の条件: その判断が何件、机上で終われば合格とするか。期間だけで書かない
取得手段が範囲ごとに変わる前提: 1つの機材で全部を取り切る計画にしない
bestatが稼働中の工場で行った実証では、工場全体をFARO製の3Dスキャナーで計測し、一部の設備はスマートフォンで撮影しました(bestat note)。稼働を止められない範囲があると、取得手段を1つに固定できません。この前提を計画に書いていない場合、実証の途中で計画変更の手続きが挟まります。

打ち切りの条件も着手前に書く
期間だけを決めておくと、延長の判断が「もう少しで出そう」に寄ります。条件は、何が起きなければ打ち切るかで書きます。
最初の1件が机上で終わらないとき、何を変えるか(取得の範囲、閲覧の環境、対象の判断のどれか)
変える回数の上限をいくつにするか
上限に達しても1件も終わらなければ、対象を選び直すか、投資をやめるか
投資対効果が読めない
投資対効果が不透明なまま止まる原因は、費用の見積もりより何を置き換えるかに課題がある場合が多いです。比較に置くのは、現地へ足を運んで下している判断の回数です。
詰まるのは数え方です。誰が、どの記録から、何を1回として数えるのか。この3つを決めないと、実証の前と後で物差しが変わり、増減の説明もできません。他社の削減率を借りた場合、前提を聞かれた時点で止まります。
数える元になる記録は4種類あり、どれを使うかで落ちるものが変わります。
記録 | 数えられるもの | 落ちるもの |
|---|---|---|
出張申請・旅費精算 | 事業所をまたぐ移動の回数と目的 | 同一構内の移動が落ちる |
入退場記録・入構記録 | 誰がいつ現場に入ったか | 目的が残らず、理由を別に聞く |
作業日報・点検記録 | 何をしに行ったか | 定期の作業と臨時の確認が混ざる |
会議の議事録 | 「現地を見てから決める」の件数 | 粒度が部門ごとに揃わない |

費用は、何が変数になるかを条件ごとに埋めます。
対象範囲の広さ(何台か、何棟か、屋内か屋外か)
取得手段を何通り使うか(範囲によって切り替えるかどうか)
現況が変わる頻度と、更新の担当が決まっているか
閲覧する人数と、社外の関係者が含まれるか
金額の大小だけで議論すると、判断が止まります。比べる相手を4つ置くと、費用と回数を同じ軸で並べられます。
比べる相手 | 何を比べるか |
|---|---|
現状維持 | 現地確認を続けた回数と、かかっている人の時間 |
現地確認を増やす | 人を増やす追加費用と、増やせる上限 |
判断ごとに外注する | 外部へ依頼する1件あたりの手間と待ち時間 |
部分導入 | 1台・1棟に絞った費用と、置き換わる判断の件数 |
データの持ち出し可否が決まらない
「このデータを外に出してよいか」をまとめて一問で確認すると、返る答えは原則不可になりやすいです。中身が特定できない依頼を通す理由が、判断する側にありません。実際に判定されるのは、データの種類ごとの組み合わせです。
IPAのレポートは、デジタルツインには社内の機密情報を反映することが多いとしたうえで、次のように書いています(IPA 全体最適へ向かうデジタルツイン)。
デジタルツインを活用する企業は、機密情報の流出や、データの改ざんを防ぐためにセキュリティを強化する必要がある。
強化の前に必要になるのが、何が機密情報に当たるかの線引きです。線引きが無いまま「強化する」と書いても、可否の判断は進みません。形状データを分けるときの単位は、次の4つです。
設備や構造物ひとつの形: 外形と周囲の寸法。型式や銘板が読み取れる範囲まで写っていないか
敷地や工場全体の配置: どの工程がどの順で並んでいるか。配置そのものが競争情報になるため、扱いが変わる
稼働の値: 生産量・稼働率・不良率に換算できる値が含まれるかどうか
図面の表題欄と部品名: 社名・品番・図面番号が写り込む。形状だけが必要なら消せるか

委託先の認証は、後から確認するより先に聞くほうが往復が短くなります。確認するのは、認証の有無と、その適用範囲です。認証があること自体は、持ち出し可否の答えにはなりません。参考として、bestatは ISO/IEC 27001:2022 および JIS Q 27001:2023 を取得しています(bestat note)。
対処しても動かない場合
5つの課題に手を打っても次の実証が本導入に進まないなら、疑う先を切り替えます。順序は4つあり、上から順に判定します。データ形式や古い設備との連携を疑うのは、この4つの後です。順序を逆にすると、対象の選び方が変わらないまま作業だけが増えます。
① そもそも机上に降ろせる判断が無い。 判定は、現地確認の記録を1か月分見て、行った理由を分類することです。形状や位置の確認が1件も無ければ、形状データを増やしても回数は減らないので、対象を選び直します。ここを飛ばして精度の議論に入る例が最も多く、費用も時間も戻りません。
② 形状データの取得時点が現況と合っていない。 対処を全部やって判断が降りないなら、精度より取得時点を疑います。判定は、最後に取得した日付と、直近の改造・設備入替えの日付を並べることです。改造の後に取り直していなければ、密度を上げても現況とは合いません。
③ 判断の場にデータを持ち込めていない。 関係者が開けなければ、判断は降りません。判定は、その判断に関わる人の全員が手元の端末でデータを開けるかどうかです。
④ 回数を数えた対象と、投資する対象がずれている。 判定は、効果として書いた数字が、どの対象のどの記録から出たかを言えるかどうかです。別の拠点の回数を根拠にしている場合、対象を数え直します。
よくある質問
デジタルツインの欠点は何ですか?
デメリットとして実務に効くのは3つです。現実側が変わるたびに更新の手間が続きます。監視していない範囲の影響は予測できません。効果の判定には、使う側で数えた回数が要ります。
更新は、担当と頻度を決めれば費用として見積もれます。予測できる範囲は、答えを出させたい問いを選ぶ段階で決まります。回数は、着手前に数え方を決めておけば後から用意できます。
「小さく始める」とは、どのくらいの範囲ですか?
範囲の広さでは決めません。置き換える判断の数で決めます。判断1つに対応する範囲が、最初の対象です。
設備1台で判断が1つ決まるなら1台、装置の周囲3メートルで決まるならその範囲です。判断が2つ以上ぶら下がる範囲を選ぶと、合否の判定が分かれて結論が出ません。範囲の絞り込み方はデジタルツインとはでも扱っています。
小規模な組織でも導入する意味はありますか?
判断が起きる頻度で決まります。現地へ足を運んで確かめている判断が、どのくらいの間隔で起きているかを見ます。
1拠点でも、同じ場所を月に何度も確認しているなら対象になります。規模が大きくても現地確認が年に数回なら、置き換えても効果は小さいままです。回数の数え方は、規模にかかわらず同じです。
まとめ
デジタルツインの課題は、目的と体制、現況のデータ、実証の合否、投資対効果、データの持ち出しの5つに集まります。総務省が委託した調査研究の報告書が指摘するとおり、効果は使う側の体制と導入方法に左右されます。
5つとも、対処の起点は着手前に決めていない1項目です。置き換える判断を1つ名指しし、その回数を数え、データを種類ごとに分けるところから始まります。
対処しても動かないときは、机上に降ろせる判断があるか、取得時点が現況と合っているか、判断の場でデータを開けるか、数えた対象と投資の対象が一致しているかを順に判定します。判定に要るのは同じ記録を実証の前後で数えることだけで、機材の性能には左右されません。
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bestat 編集部について
bestat株式会社は、東京大学 松尾研究室発の産業用3Dデータに特化したAIスタートアップです。製造業・インフラ・土木の現場で、画像・動画・点群・360度動画など、現実空間で取得される多様なデータを高精度に3D化し、取得・生成・処理・活用までを一気通貫して支援する「3D.Core」シリーズを開発・提供しています。 https://bestat-data.com/3dcore

