2026.08.07

  • #お役立ちコラム

デジタルツインとは何か | メタバース・VRとの違いと製造業の具体例

デジタルツインとは、現実の設備と対応づけて更新されるデジタルの写し

デジタルツインとは、現実に存在する設備や建屋を、データとして仮想空間に写し取ったものです。総務省『令和6年版 情報通信白書』は、デジタルツインを次のように説明しています。「現実世界から集めたデータを基にデジタルな仮想空間上に双子(ツイン)を構築し、さまざまなシミュレーションを行う技術」(総務省 令和6年版 情報通信白書)。ここで効いているのは「双子」の語です。見た目が似ていることではなく、現実側が変われば片方も変わる対応関係を指します。デジタルツインを名乗れるかは、次の3つが揃うかで判定できます。

  • 対応づけ: データが現実の特定の対象(この工場のこの1号機)と一対一で結びついている

  • 更新: 現実側が変わったときにデータ側を更新する段取りが決まっている

  • 判断への接続: そのデータを見て、誰かが何かを決めている

3つのうち「更新」が抜けている例が最も多く見られます。1回スキャンして3Dデータを作っただけの状態は、翌月の改造が反映されない静止画です。次の年度には「もう現況と合っていない」と言われ、使われなくなります。

メタバース・VR・シミュレーション・3Dモデルとの違い|何が重なり、どこが別物か

「デジタルツインをやりたい」という依頼を受けたら、最初に確認すべきは「何を実現したいか」です。依頼者が思い描いているものは、多くの場合3つに分かれます。歩いて見て回れる3D空間なのか、稼働状況が並ぶダッシュボードなのか、設計案を試せるシミュレーション環境なのか。この確認を飛ばして進めると、必要なデータも費用も担当部門も違う3つが混ざったまま要件が固まりません。混同されやすい語は4つあります。境目は「現実の特定の対象と対応づいているか」「人が体験するためのものか」の2つでほぼ判定できます。

概念

それ自体の目的

現実の特定の対象と対応づくか

デジタルツインとの関係

3Dモデル

形を表す

不要(架空の形でも成立する)

デジタルツインの中で形を担う

メタバース

人が集まって体験・交流する

不要

別物。重なるのは3D表示の技術

シミュレーション

挙動を計算して予測する

手法なので問われない

ツインの上で回す手法

VR・AR

見せ方(没入・現実への重畳)

不要

ツインの表示手段の一つ

3Dモデルとの違い|形があるだけではツインにならない

3Dモデルは形を表すデータです。まだ存在しない新製品をCADで描いた形も3Dモデルであり、現実に対応する相手がいなくても成立します。デジタルツインは、現実の1台・1棟に紐づいたうえで更新されることが前提です。「3Dデジタルツイン」と呼ぶのは、形状データを土台に据えた構成を明示したいときです。上位概念が変わるわけではありません。3Dモデルを作った時点で得られるのは、その日のスナップショットです。先に進むには、更新の段取りと、そのデータで何を決めるかが要ります。

メタバースとの違い|現実に対応させる必要があるかどうか

メタバースは、人が集まって体験・交流するための仮想空間です。現実に存在しない街でも成立し、現実と一致していないことが価値になる場合もあります。デジタルツインは逆です。現実の設備が改造されたら、データも直さなければ意味を失います。両者が重なるのは、3D空間を画面に描く技術と、複数人が同じ空間を同時に見る仕組みだけです。「メタバース基盤があるので工場のデジタルツインもできる」との説明が出たら、設備の形状と状態の取得元を別に確認します。

シミュレーションとの違い|手法か、現実と対応づけた仕組みか

シミュレーションは計算の手法です。強度解析や生産ラインの流動計算は、現実の特定の1台に紐づいていなくても実行できます。デジタルツインは、その手法を回すための土台にあたります。現実との対応がある状態でシミュレーションを回すと、入力が実測値になり、出た結果を現物と突き合わせて検証できます。対応づけの無いモデルの計算結果は、条件の置き方が妥当だったかを現物で確かめられません。稟議で「その数字はどこから来たのか」と聞かれたときの答えは、この違いで分かれます。

VR・ARとの違い|「見せ方」の技術であって、対立概念ではない

VRは没入して見る手段です。ARは現実の視界に重ねる手段で、どちらも表示側の技術です。デジタルツインは、VRゴーグルでも会議室のプロジェクタでも、現場のタブレットでも成立します。表示手段を先に決めても、映すべき現況のデータが無ければ何も映りません。機材の検討から入ると、この順序が逆になります(VRは記事末の「よくある質問」で整理します)。

実証の現場では、依頼の言葉と必要な段取りがずれます。稼働中の工場で行った実証では、工場全体をFARO製の3Dスキャナーで計測しました。一部の設備はスマートフォンでの撮影に切り替え、両方を併用しました(bestat note)。1つの機材で工場全体を一度に取り切る前提では、そもそも計画が組めません。「デジタルツインの製品を1つ入れれば揃う」との理解のままベンダー比較に入ると、この併用の必要性が見積もりから抜け落ちます。

デジタルツインが高額で難しいと思われる理由

デジタルツインを調べると、工場をまるごと再現した事例と、導入費用の相場を掲げた記事が並びます。そこで検討が止まる理由は、額の大きさではありません。何がその額を決めているのかが読めないからです。高く見える原因は3つに絞れます。対象範囲を工場全体だと考えていること。設備の形のデータを新しく取り直すものだと考えていること。更新を人手で回す前提で見積もっていること。いずれも判断した結果ではありません。決めていないために、最大構成で見積もられます。この3つを先に決めるだけで、見積もりの前提は変わります。

高く見える理由

実際に額を決めているもの

工場全体を写すものだと思っている

机上で終わらせたい判断が1つに絞れる範囲

形のデータを新しく取得するものだと思っている

社内に既にある点群・図面・写真をどこまで使えるか

更新を人手で回す前提で見積もっている

現実側が変わる頻度と、更新の担当が決まっているか

範囲を絞る作業は、規模の縮小を意味しません。「この範囲を写せば、いま現地へ行って確かめている判断が1つ机上で終わる」と言い切れる単位まで下ろします。ここが決まっていないと、相手は最大構成で見積もるしかありません。受け取る側も、妥当かどうかを判定できません。

2つ目の「取り直す前提」も、実際には多くの現場で崩れます。必要なのはプラットフォームではなく、現況を写したデータ資産そのものです。社内に点群や図面が残っていれば、そこが出発点になります。

他社の相場を自社の見積もりに当てるより、自社で数えられる数字を1つ持つほうが稟議は通ります。いま現地へ足を運んで確かめている判断を1か月分数え、そのうち何件が机上で終われば見合うかを先に置いてください。この分母が無いまま相場だけを比べても、高いか安いかは判定できません。

状態データを解釈するAIの活用(異常検知や需要予測)は、形と状態が揃った先に乗る使い方です。揃わない段階では効きません。

形状データが無いと、デジタルツインは何ができないのか

センサーを付けて稼働データを集めれば、稼働率の推移や異常の傾向は見えます。ただし、現況の3D形状データが無い状態でできるのは、数値が並ぶダッシュボードまでです。空間としての判断は、1つも降りません。新設する装置が既設配管に当たるか、点検の人が入れる隙間があるか、レイアウトを変えたら動線がどうなるか。これらはすべて、形と位置の情報を要求します。形状データが無いまま可視化を進めると、PoCの成果物が「グラフの画面」になります。本導入の稟議では、説明が続かなくなります。

センサー値だけで決められる判断と、決められない判断

センサー値だけがある状態でも、次の判断は降ります。

  • 稼働率・停止回数・段取り時間の推移を見て、対策の優先順位を付ける

  • しきい値を超えた機器を名前で特定し、点検の順番を決める

  • 異常が出た時刻と、前後の工程の記録を突き合わせる

一方で、形状データが無いと次の判断は降りません。

  • 新設する装置や配管が既設の設備・架台と当たらないか

  • 点検や搬入のために、人と台車が通れる幅が残っているか

  • レイアウトを変えたときに、搬送動線と作業者の移動がどう変わるか

  • 遠隔の関係者が同じものを見て、同じ場所について話せているか

この2つの間に、条件付きで決められる判断があります。図面が現況と一致していれば、寸法の当たりは図面上で確かめられます。ただし、改造の履歴が図面に反映されていないことが多く、差分の確認で現地へ行くことになります。つまり「決められない」の多くは、手元の形状情報が現況と合っていると誰も保証できない状態から来ています。

現況の形状データは、3つの系統から手に入る

現況の形状データを手に入れる入口は3つあり、社内に何があるかで選び方が変わります。

  1. 既に取得した点群を使う: レーザースキャナで計測した点群が社内や協力会社に残っている場合。追加の現場作業は不要です。ただし、容量と閲覧環境が次の課題になります

  2. 撮影から起こす: エンジニアがスマホ・360度カメラ・ドローンのカメラ等で撮影するだけで、高精度な3Dデータを自動生成できます。大掛かりな機材は要りません(bestat プレスリリース)。工場では、稼働を止められない設備の周りを歩いて撮れる点が効きます

  3. 既存の2D図面・CADから起こす: 3D.Core CAD Agent は2D図面をアップロードするだけで3D CADモデルを生成し、対話形式での調整まで最短5分で行えます(bestat プレスリリース)。図面資産が大量にある企業では、現地に入る前にここから当たる選択肢もあります

3つは併用できます。前節の実証でも、工場全体をスキャナー、一部の設備をスマートフォンで取得しています。範囲ごとに取得手段を変える前提で計画を組むと、見積もりの精度が上がります。

形状データが取れた後の詰まり|重くて開けない

形状データが手に入っても、次の詰まりがあります。点群はデータ量が大きく、専用ソフトと高性能PCがないと開けません。他部門や協力会社にも渡せません。関係者が同じものを見られなければ、判断は降りません。3D.Core は、大容量点群データを軽量な3Dモデル(メッシュ)へ変換します。変換後は最短当日中に確認・計測できる形で提供します(bestat プレスリリース)。点群からの変換は3D.Coreが対応します。2D図面からの生成は3D.Core CAD Agentです。

現況の形状データを何から用意するかは、社内に今あるデータで決まります。入口ごとの扱いは3D.Coreの製品ページで確認できます。

製造業の現場で使われているデジタルツインの具体例|何を写して、何を決めたのか

具体例で見たいのは、他社の完成形ではありません。自社の何を写せば、どの判断が机上に降りるかです。以下の3件は、対象・写したもの・使いどころ・関わる部門の4項目で並べています。3件に共通するのは、特定の判断に紐づいた範囲を写している点です。漠然とした「工場全体」ではありません。業種別の導入手順ではなく、この粒度で自社に当ててみてください。近い行が1つあれば十分です。

対象

写したもの

その形状データの使いどころ

関わる部門

稼働を止められない生産設備

工場全体の計測と、一部の設備の撮影

止めずに現況の形を取得し、扱える形にする

生産技術、設備保全、DX推進

高放射線下の廃炉現場

一度しか入れない現場の状況

現場の状況を関係者間で共有し、次へ継承する

工事、技術、安全管理

図面にない現況を持つ鋼橋

補修対象の現況

施工前検討を現場目線の3D活用で支える

設計、施工計画、工事

① 稼働中の工場。生産を止められない前提では、取得手段を1つに固定できません。前掲の実証でも、工場全体の計測(FARO製3Dスキャナー)と一部の設備の撮影(スマートフォン)を併用しています。「工場を止めてまとめて計測する」以外の道があるかは、稟議の前に確認しておく論点です。

② 一度しかない現場。東京パワーテクノロジー(TPT)との取り組みの主題は、高放射線下で入り直せない現場を、いかに共有し継承するかです。「現場百回」をデジタルで再定義する試みとして公開しています(特殊環境の「現場」を、いかに共有し、継承するか)。同じ構図は、立ち入り制限のあるクリーンルームや、解体が決まった旧棟にも当てはまります。

③ 図面にない現況。IHIインフラスクエアとの取り組みは、図面にない現況と向き合う鋼橋補修です。施工前検討を、現場目線の3D活用で支えています(鋼橋補修の「施工前検討」を支える、現場目線の3D活用)。鋼橋の保守・補修の文脈では、3D.Coreによって誰でも簡単に3Dデータを生成できます。基本計画開始までの準備時間は、最大1/10にできるとしています(bestat プレスリリース)。短縮の対象は、基本計画に入るまでの準備時間です。データ容量や工数そのものではありません。

他の事例は導入事例の一覧にまとまっています。

デジタルツインでよくある失敗は、範囲を決めずに工場全体を写しに行くこと

デジタルツインの検討が止まるのは、技術の限界より手前の段取りです。よくある失敗は、対象範囲を決めずに「まず工場全体を写す」から始めることです。全体を写すと費用と期間が読めなくなり、出来上がったデータは誰の判断にも紐づかないまま置かれます。止まり方は次の3つに分けられます。どれも技術で解決するものではなく、着手前に決めれば避けられます。先に決めるのは範囲・更新・閲覧環境の3つです。機材と精度の選定は、その後です。

  • 対象範囲を決めていない: 「工場のデジタルツイン」のまま見積もりを取ると、範囲が広い提案が並び、比較できない

  • 更新の担当と頻度を決めていない: 改造や設備入替えの後にデータが古くなり、次の年度に使われなくなる

  • 写した後の閲覧環境を決めていない: データはできても、開ける人が社内に限られ、判断の場に持ち込めない

投資対効果の説明やPoCが本導入に載らない原因の切り分けは、それ自体で1本の論点になります。ここでは「どこで止まるか」までとします。

最初の対象範囲は、判断が1つに特定できるところまで絞る

最初の対象範囲は、「その範囲を写せば決まる判断を、1つの文で言えるか」で絞ります。言えないなら、範囲が広すぎます。絞り込みに使えるのは、次の3問です。その判断を今は何で代替しているか(現地確認・過去図面・関係者の記憶のどれか)。同じ場所を見るために、どの部門の誰が何回動いているか。判断が遅れると、どの工程の日程が動くか。3問に具体名で答えられる範囲を、最初に写します。

閲覧環境は、範囲と同時に決めます。3D.Core は、専用ソフトのインストールや高性能PCを不要としています。確認と計測は、手元のPC・スマートフォン・タブレットからできます(bestat プレスリリース)。

デジタルツインを名乗れているかは、2つの問いで自己判定できる

手元の取り組みがデジタルツインになっているかは、次の2問で判定できます。現実側が変わったとき、データ側を更新する段取りが決まっているか。その更新の担当者と頻度を、名前と数字で書けるか。どちらかが空欄なら、手元にあるのは一度きりの3Dスキャンの結果です。ツインではありません。この判定は、計測精度や機材の性能と無関係です。PoCを始める前でも、走らせた後でも、同じ問いで確かめられます。逆に、更新の段取りが書けているなら、最初のデータが粗くても後から精度を上げる価値があります。

用語の要点

  • デジタルツイン: 現実の対象と対応づけ、現実が変わったら更新されるデジタルの写し。更新の段取りが無いものは含めない

  • 形状データ(点群・メッシュ): 設備・配管・建屋の形と位置を持つデータ。干渉・隙間・配置変更の判断はこれが無いと降りない

  • 状態データ: センサーが取る稼働・温度・圧力などの値。単独で作れるのはダッシュボードまで

  • メタバース: 人が集まって体験・交流する仮想空間。現実の特定の対象と対応づく必要がない点でデジタルツインと別物

よくある質問

デジタルツインはVRと何が違いますか?

VRは見せ方の技術です。デジタルツインは、中身のデータと運用の仕組みです。両者は対立しません。デジタルツインは、VRでもタブレットの画面でも見られます。判断が要るのは順序です。表示手段を先に選んでも、映すべき現況のデータが無ければ、空の空間が映るだけです。VRを検討する場合は、対象設備の形状データの状態を先に確認してください。点群のみか、メッシュ化済みか、CADがあるかです。

デジタルツインは安全ですか? データはどこに置かれますか?

設備配置そのものが機微情報なので、置き場所は先に決める要件です。情報システム部門へ渡す確認事項は5点です。

  • データがどこに保管されるか

  • 処理をどこで行うか

  • 保持期間と削除の取り決めがあるか

  • 閲覧リンクのアクセス範囲と有効期限を管理できるか

  • 再委託があるか

この5点を先に渡すと、審査が進みます。委託先の認証状況も確認対象です。bestatは ISO/IEC 27001:2022 および JIS Q 27001:2023 を取得しています(bestat プレスリリース)。

センサーで監視していれば、それはデジタルツインですか?

センサーによる監視は、稼働の値を集める仕組みです。それだけでは、デジタルツインになりません。現実との対応づけと更新はあっても、現況の3D形状データが無いからです。そのため、空間としての判断(干渉・隙間・動線)が降りません。IoTとの違いもここにあります。IoTはデータを取って送る仕組みです。デジタルツインは、そのデータを現実の形状と重ねて判断に使う仕組みです。既にセンサーが入っている工場は、現況の形状データを足すだけで空間の判断に届きます。

デジタルツインとBIMの違いは何ですか?

BIMは、建物や構造物を、設計情報と属性を持たせた部材の集まりとして管理する考え方です。デジタルツインは対象を建物に限らず、現実と対応づけて更新することに重心があります。製造業で切り分けると、建屋や構造物のように設計情報と属性を持たせて管理する対象はBIMの領域です。生産設備や装置のように現況の形を写して判断に使う対象は、3Dモデル・点群の領域です。工場では両方が同じ敷地に混在します。対象ごとにどちらの扱いにするかを決めておくと、データの管理方法がぶれません。


部内会議の後に必要になるのは、1人で読む記事より、回覧できる資料です。デジタルツインの実現に必要な3Dデータの生成について、詳しくはこちらの資料からご覧いただけます。3D.Coreの詳細をまとめた説明資料です。→ 資料ダウンロード


bestat 編集部について

bestat株式会社は、東京大学 松尾研究室発の産業用3Dデータに特化したAIスタートアップです。製造業・インフラ・土木の現場で、画像・動画・点群・360度動画など、現実空間で取得される多様なデータを高精度に3D化し、取得・生成・処理・活用までを一気通貫して支援する「3D.Core」シリーズを開発・提供しています。 https://bestat-data.com/3dcore

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