2026.04.28

  • #3D.Core

特殊環境の「現場」を、いかに共有し、継承するか

― 廃炉プロジェクトで挑む、3Dデータ活用の検証と手応え ―

Key View:「現場百回」を、デジタルで再定義する。

老朽化したインフラの保守とは異なり、廃炉という現場は「一度しかない」。しかも、高放射線下という極めて厳しい環境の中で、安全かつ確実に作業を進めなければならない。

そうした現場において、東京パワーテクノロジーは3D.Coreの活用検証を進めてきました。まだ検証フェーズではあるものの、現場の技術者の方々が自らカメラを手に取り、試行錯誤しながら「3Dの使いどころ」を見出し始めています。


東京パワーテクノロジー株式会社について

原子力関連施設のメンテナンス・廃止措置・放射線管理などを手掛けるエンジニアリング企業。特殊環境下における高度な技術力と現場ノウハウを強みとし、長年にわたり日本のエネルギーインフラを最前線で支え続けています。

  • 今回お話を伺った方

    執行役員 原子力事業部 原子力技術開発センター長 岡村 祐一 様


3D.Core導入の背景

―― 廃炉の現場では、どのような課題がありましたか?

岡村様:私たちが向き合っているのは、原子力施設の廃止措置という、非常に特殊かつ日々変化する現場です。

これまでの作業計画では、実寸大の模擬設備を作ってモックアップ訓練を行ったり、2D図面やテキストのマニュアルで手順を確認したりするのが通例でした。ただ、モックアップの作成には膨大な時間とコストがかかりますし、図面や文字情報だけでは、どうしても作業員ごとの感覚に依存する部分が残ってしまいます。

また、3D化やデジタルツインの構築自体はこれまでも進めていましたが、撮影から完成までにかなりの時間を要していました。廃炉の現場は日々状況が変わります。「3Dデータが完成した頃には、現地の状況がもう変わっている」というタイムラグが常態化しており、実務でのタイムリーな活用には課題が残っていました。

<2D図面イメージ>

―― 3D.Core導入の決め手は何だったのでしょうか?

岡村様:「スピード」と「手軽さ」、そして「データの扱いやすさ」が決定的でした。

高線量エリアなど立ち入りが制限される場所が多い私たちの現場では、専門の撮影クルーが重機材を持ち込んで何日もかける手法は現実的ではありません。3D.Coreはスマートフォンや汎用カメラで撮影したデータから、スピーディに高精度な3D空間を構築できます。現場の技術者が手持ちの機材で撮影し、すぐにデジタルツイン化できる。この即応性は、刻々と変化する現場を扱う上で必須条件でした。

加えて、画像データだけでなく、計測機器で取得した点群データや放射線量データをマージできる点も評価しました。目に見える形状だけでなく、目に見えないリスクまで可視化し、軽量で扱いやすいモデルとして出力できることが、検証を進める大きな動機になりました。

「リスクの解像度」が上がる、3Dならではの気づき

―― 実際の現場では、どのような検証を行っていますか?

岡村様:福島第一原子力発電所の作業空間を対象に、画像データと点群データを取得し、3D化したうえで、別途計測した放射線量の分布マップを重ね合わせています。さらに、大型没入型ディスプレイシステム(CAVE)を導入して3D空間を立体的に体験できる環境を整えるとともに、専用の軽量眼鏡型デバイスを用いたレビュー会も実施しています。また別途、VRゴーグルを使った体験検証も行っており、関係者が同じ空間に「入り込む」ような感覚で議論できるようになっています。

そこから見え始めた効果は、「リスクの解像度」が上がったことです。作業員のアバターや設備モデルを仮想空間上に配置してみると、「この位置に立つと足元の配管につまずく可能性がある」「ここに機材を置くと退避動線の妨げになる」といった、図面では見落としがちな物理的なリスクが具体的に見えてきました。また、放射線量が高いホットスポットが空間的にどこに位置しているかが直感的に把握できるため、被ばく線量を抑えた作業ルートの検討にも役立っています。

―― 現場のエンジニアや他拠点との連携における反応はいかがでしたか?

岡村様:現場のメンバーからは「図面ではイメージできなかった場所が、本当にそこにいるように感じる」と、驚きに近い反応がありました。

今後の取り組みとして、遠隔拠点間での相互レビューも視野に入れています。新潟拠点のメンバーが福島の現場を3D空間で確認しながらリアルタイムで議論したり、反対に福島側が新潟の情報を確認したりと、双方向のレビュー体制を整えることで、組織としての連携をさらに強化していく予定です。これまで現地に行かないと分からないとされていた壁を、デジタルが越えつつあると感じています。

検証を通じて広がる、次の可能性

―― 今後の展開について教えてください

岡村様:まずは、作業マニュアルへの本格的な導入や、安全レビュープロセスへの組み込みを目指しています。導入から約1年で「3D空間上でのシミュレーション再現」という最初の目標が形になりつつあり、検証の成果を実務に活かす具体的なイメージが見えてきた段階です。次はそれをどう運用フローに落とし込むかを一つひとつ検討しているところです。

技術面では、これまでの写真から3Dモデルを生成するフォトグラメトリ技術からガウシアン・スプラッティング(Gaussian Splatting)への移行も検討しています。より高精細な表現を実現するため、自社でガウシアン撮影に対応したカメラの購入・活用も視野に入れています。関係各所との連携を深めながら、事業・実務への定着に向けたステップを着実に進めています。もう少し広い視点で言えば、この取り組みは単なる「事故防止(Safety-I)」のためのツールにとどまらないと考えています。熟練技術者がどのように現場を見ているのか、どの位置取りで作業をしているのか——そうした「優れた技」や「良好事例」をデジタル空間に残し、形式知化していく「Safety-II」のアプローチにも応用可能です。深刻化する技術継承問題に対する一つの解として、3D技術が「現場の知恵」を次世代につなぐプラットフォームに育っていくことを期待しています。


編集後記|現場の熱量が、検証を前へ進める

取材を通じて印象的だったのは、最新技術の話以上に、「いかに現場の安全を守るか」「いかに技術を絶やさず継承するか」というエンジニアの方々の切実な想いでした。

現在も、東京パワーテクノロジーの取り組みは着実に前進しています。ロボットを活用した3Dデータ取得の研究、新たなVRツールの検証など、部署内では次々と新しいチャレンジが生まれています。bestatは現在も、現場で生まれる小さな困りごとに都度向き合いながら、その試行錯誤に伴走しています。

どんなに優れたデジタル技術も、現場で使われなければ意味がない。現場のプロフェッショナルの方々が自ら技術を「自分たちの道具」へと昇華させようとしているこのプロセスに、bestatも共に歩み続けます。

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導入事例詳細

企業名

東京パワーテクノロジー株式会社

ご担当部署

原子力事業部 原子力技術開発センター

成果

1)放射線量マップと3D空間の重ね合わせにより、ホットスポットと作業リスクを可視化
2)現場技術者が手持ち機材で撮影・即日3D化。撮影から完成までのタイムラグを解消
3)福島↔新潟間でのリアルタイム遠隔レビューに向けた取り組みを推進中

業種

エネルギー・インフラ関連サービス業

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