2026.09.02

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製造業のデジタルツインとは?活用例・導入手順・成功のポイント

製造業のデジタルツインは、設備や製品、工程など現実の対象をデジタル空間に再現し、現場のデータで状態を更新しながら、分析やシミュレーションの結果を実際の判断へ戻す仕組みです。

本記事では、製造業におけるデジタルツインの仕組みと活用例、導入の進め方、必要なデータ、失敗を避けるポイントを実務の視点で整理します。

執筆: bestat 編集部

製造業におけるデジタルツインとは

デジタルツイン(Digital Twin)とは、現実にある対象と対応するデジタルモデルを作り、両者のデータを継続的に結び付けて活用する考え方です。対象は部品1点から設備、製造ライン、工場全体、サプライチェーンまで広げられます。

製造業では、次の5つを一つの流れとして扱います。

  1. 現実の対象:製品、設備、ライン、工場など

  2. データ取得:センサー値、稼働履歴、検査結果、画像、点群、作業記録など

  3. デジタルモデル:3D形状、設備構成、工程、物理モデル、統計モデルなど

  4. 分析・予測:干渉確認、性能予測、異常検知、条件比較、シミュレーションなど

  5. 現場への反映:設計変更、保全計画、作業指示、生産条件の調整など

3Dモデルやシミュレーションとの違い

3Dモデルは形状を表すデータです。シミュレーションは、条件を与えて挙動や結果を計算する手法です。どちらもデジタルツインを構成する要素ですが、それだけでデジタルツインになるわけではありません。

用語

主な役割

現実とのつながり

3Dモデル

形状・配置・構造を表す

一度作成したままでも成立する

シミュレーション

条件を変えて挙動や結果を予測する

実データを使わない仮想検証もある

IoT監視

センサー値や稼働状態を可視化する

現実の状態を取得するが、モデルや予測がない場合もある

デジタルツイン

現実の状態をモデルへ反映し、分析結果を判断や行動へ戻す

対象との対応、更新、活用の循環がある

工場の点群を取得して3D表示した段階は「デジタル化」の土台です。そこへ設備ID、図面、保全履歴、稼働データなどを結び付け、具体的な判断に使って初めて価値が生まれます。

製造業でデジタルツインが注目される理由

製造現場では、設備の複雑化、人材不足、熟練者への依存、多品種少量生産、短い製品サイクルへの対応が同時に求められています。一方、必要な情報はCAD、紙図面、設備台帳、表計算、製造実行システム、担当者の経験などに分散しています。

デジタルツインは、この情報を対象にひも付け、「現在どうなっているか」「変更すると何が起きるか」「次に何をすべきか」を同じ対象を見ながら検討できるようにします。現場、設計、生産技術、保全、設備メーカーが共通の状況認識を持てる点も利点です。

IPA『DX動向2025-成長のためのDXに求められる取組』は、明確な企業戦略のもとでPDCAを回し、成果指標を設定する必要性を示しています。また、『2025年版ものづくり白書(概要)』は、個社単位のデジタル化・効率化では一定の成果がある一方、高度で広範な領域の成果創出は限定的だと整理しています。いずれもデジタルツインだけの調査ではありませんが、目的と指標を定め、管理できる範囲から始める重要性を考える材料になります。

製造業におけるデジタルツインの活用例

デジタルツインは製品ライフサイクルの各工程で使えます。ただし、工程によって必要なモデル、データ、KPIは異なります。

1. 製品設計・開発

設計段階では、CADモデルやCAE解析、試験データを組み合わせ、強度、熱、流体、振動などを仮想環境で検証します。試作前に複数案を比較できれば、試作回数や設計手戻りを減らせます。

製品出荷後は、個体ごとの使用条件や故障履歴を設計へ戻し、次期製品の改善にもつなげられます。設計モデルだけを扱う「デジタルプロトタイプ」と、稼働中の個体データまでつながる「デジタルツイン」は分けて考えると、必要な範囲が明確になります。

2. 生産準備・ライン設計

設備の据付やライン変更では、現況の3Dデータと設備モデルを重ね、干渉、作業空間、搬入経路、ロボットの到達範囲などを事前に確認できます。現物合わせを減らし、工事直前の設計変更や立ち上げ遅延を防ぐ用途です。

既存図面が古い工場では、点群や画像から作った現況モデルが有効です。稼働中の工場で3Dスキャナーとスマートフォン撮影を併用した実証も紹介されています(bestat note)。必要な精度、対象範囲、設備を止められる時間から取得方法を選びます。

3. 量産工程の監視・最適化

量産工程では、設備の稼働状態、サイクルタイム、品質、仕掛かり、エネルギー消費をモデル上で把握します。ボトルネックの発見、生産条件の比較、異常発生時の影響範囲の特定に役立ちます。

この用途では詳細な3D形状より、設備ID、工程順序、時刻の整合、停止理由の分類が成果を左右することがあります。見栄えのよい工場モデルを先に作るのではなく、改善したいKPIからモデルの粒度を決めます。

4. 設備保全・予知保全

保全では、振動、温度、圧力、電流などの時系列データと、点検・修理履歴、部品情報を設備単位で結び付けます。通常状態との差や劣化傾向を捉え、点検時期や部品交換を判断します。

3Dモデルを加えると、対象部品の位置、周辺配管、作業スペースを遠隔で確認しやすくなります。協力会社や別拠点の専門家とも現場を共有でき、現地調査や部品選定の手戻りを減らせます。

5. 作業支援・技能継承

設備モデルに作業手順、注意点、過去の不具合をひも付ければ、教育、遠隔支援、保全作業のナビゲーションに活用できます。熟練者の知識を動画で残すだけでなく、「どの設備の、どの部位で、どの条件のときに必要か」まで関連付けるのがポイントです。

デジタルツイン導入で期待できる効果

期待効果は、業務に直結する数字へ置き換えて評価します。

目的

KPIの例

比較の単位

設計の早期検証

試作回数、設計変更件数、検証日数

製品・案件ごと

設備導入の手戻り削減

現地確認回数、干渉による変更件数、立ち上げ日数

設備工事ごと

生産性向上

サイクルタイム、停止時間、稼働率

ライン・期間ごと

品質改善

不良率、再加工時間、原因特定時間

品種・ロットごと

保全高度化

突発停止件数、復旧時間、部品手配時間

設備・期間ごと

情報共有

問い合わせ回数、現地出張回数、合意までの日数

案件ごと

他社事例の削減率は、自社の目標としてそのまま使えません。対象工程、比較期間、件数の定義、導入前の業務が異なるためです。たとえば当社の事例では、鋼橋補修の基本計画に必要な3Dデータの準備期間を最大4〜5日から半日に短縮できるとしています(bestat プレスリリース 2025-10-01)。これは対象と条件が限定された数字で、製造設備へそのまま適用するものではありません。

導入対象を選ぶ4つの判断軸

最初から工場全体を対象にすると、データ収集と統合に時間がかかり、検証する効果が曖昧になります。最初の対象は次の4軸で選びます。

1. 解決したい意思決定が明確か

「現地確認を減らす」だけでは広すぎます。「次回の設備入替えで、既設配管との干渉を工事前に判定する」のように、対象、判断、利用場面を一文で表します。

2. 発生頻度と損失が十分か

年に何回起きるか、判断が遅れると何時間・何円の損失になるかを確認します。頻度が低くても、1回の停止損失が大きい設備なら優先度は上がります。

3. 必要なデータを取得できるか

センサー値、図面、点群、作業記録があっても、設備IDや時刻が一致しなければ統合できません。データの有無だけでなく、品質、更新頻度、利用権限を確認します。

4. 現場で結果を使えるか

予測精度が高くても、誰が、いつ、どの基準で行動するかが決まっていなければ効果は出ません。結果を受け取る担当者と、既存の承認・作業フローへの組み込みまで設計します。

製造業のデジタルツインを導入する手順

導入は「小さく作り、実案件で測り、使える部分だけを広げる」順序が現実的です。

ステップ1:課題とKPIを一つに絞る

改善したい判断を一つ選び、導入前の値を測ります。設備入替えなら現地確認回数、保全なら故障原因の特定時間など、担当部門が継続して記録できる指標を選びます。

ステップ2:対象範囲とモデルの粒度を決める

必要な範囲は用途から逆算します。干渉確認なら対象設備と周囲、予知保全なら対象機器と関連センサー、作業支援なら手順に関係する部位で十分です。

ステップ3:データを棚卸しする

CAD、2D図面、点群、画像、設備台帳、PLC・センサーデータ、MES、品質記録、保全履歴を洗い出します。所有部門、形式、設備ID、時刻、更新頻度、欠損、アクセス権限を記録します。

ステップ4:最小構成のツインを作る

最初の実証では対象設備、必要なデータ、利用者を限定します。2D図面しかない場合は3D化し、既存点群が大きすぎる場合は軽量なモデルに変換するなど、手元の資産を生かします。

ステップ5:実案件で検証する

デモではなく、次の設備工事や点検など実際の案件で使います。導入前と同じ定義でKPIを測り、モデルが正しかったかだけでなく、判断や作業が変わったかを確認します。

ステップ6:運用を標準化してから広げる

成果が確認できたら、データの更新責任者、承認方法、命名規則、アクセス権限、保管期間を標準化します。その後、同種設備、隣接ライン、別工場へ展開します。

必要なデータとシステム構成

必要なデータは目的によって変わります。すべてを集めず、答えたい問いに必要なものを選びます。

データ

代表例

主な用途

形状・空間

3D CAD、BIM、点群、メッシュ、360度画像

干渉、計測、配置、遠隔確認

設備属性

設備ID、仕様、部品表、取扱説明書

検索、部品特定、作業支援

稼働・状態

温度、振動、圧力、電流、PLC信号

監視、異常検知、予知保全

生産

工程、品種、数量、サイクルタイム、停止理由

ボトルネック分析、生産計画

品質

検査値、不良分類、画像、ロット

原因分析、条件最適化

履歴

点検、故障、修理、変更、作業者記録

劣化予測、再発防止、技能継承

システムは、現場データを取得する層、蓄積・統合する層、モデルや分析を実行する層、利用者が判断する層に分けて設計します。クラウドかオンプレミスかは、遅延、機密性、ネットワーク環境、保守体制で決めます。設備制御へ自動で戻す場合は、閲覧や助言だけの用途より厳しい安全設計と検証が必要です。

導入時によくある失敗と対策

工場全体の3D化を目的にする

広い範囲を高精細に取得すると、初期費用だけでなく更新と閲覧の負担も増えます。用途が干渉確認なら、対象設備と周囲の取り合いが読める粒度で始めます。

データを集めれば価値が出ると考える

データ量と業務効果は比例しません。先に判断とKPIを決め、判断に使わないデータは初期範囲から外します。

現物とモデルの差を放置する

設備を改造してもモデルが更新されなければ、利用者はすぐに信用しなくなります。変更工事の完了条件に、モデル、台帳、関連文書の更新を組み込みます。

部門ごとに設備名やIDが違う

設計、製造、保全で同じ設備を別名管理していると、データを結び付けられません。最初の実証で共通IDと対応表を作り、その後のデータ追加にも適用します。

高度な予測モデルから始める

学習データや故障データが不足した段階で複雑なAI予測へ進むと、精度を評価できません。まず可視化、検索、比較、しきい値監視など、少ないデータで判断を改善できる用途から始めます。

デジタルツインを使い続けるための運用設計

デジタルツインは完成品ではなく、現場の変更に追従させる運用です。取得、更新、分析、承認、実行、検証のサイクルを回し続けます。

最低限、次の項目を決めます。

  • 更新のきっかけ:設備改造、部品交換、レイアウト変更、点検完了など

  • 更新責任者:現場、保全、設計、情報システムの誰が何を更新するか

  • 正本の所在:CAD、設備台帳、保全履歴のどれを正とするか

  • バージョン管理:変更日、変更者、対象、承認者をどう残すか

  • 品質基準:形状精度、欠損、時刻ずれ、設備ID不一致をどう検査するか

  • 権限とセキュリティ:社外関係者へ見せる範囲、書き込み権限、ログ管理

  • 廃止ルール:撤去設備や古いモデルをいつ参照不可にするか

運用コストには、現場の担当者が変更を登録し、結果を業務へ反映する時間も含まれます。『2025年版ものづくり白書(概要)』では、デジタル技術の導入時に社内人材の活用・育成で人材を確保する企業が多いとされています。既存担当者の業務に収まる更新方法か、導入前に確かめる必要があります。

よくある質問

製造業のデジタルツインは何から始めればよいですか?

改善したい意思決定を一つ決め、現状のKPIを測るところから始めます。次に、判断に必要なデータと対象範囲を特定し、設備1台または一つの工程で最小構成を作ります。

中小製造業でも導入できますか?

企業規模より、解決したい課題の頻度と損失、既存データ、運用できる範囲で判断します。設備1台の遠隔確認、既存点群の軽量化、2D図面の3D化など、対象を限定すれば段階的に始められます。

必ずリアルタイムデータが必要ですか?

必ずしも必要ではありません。設備監視では秒単位の更新が必要な場合がありますが、レイアウト検討や保全計画では、設備変更時や点検時の更新で足りることもあります。業務判断に必要な鮮度から決めます。

導入費用はどのように決まりますか?

主な変数は、対象範囲、必要な精度、データ取得方法、連携するシステム数、更新頻度、利用者数、セキュリティ要件です。先に用途と粒度を決め、その条件をそろえて複数案を比較します。

効果が出るまでにどのくらいかかりますか?

構築期間だけでは決まりません。設備入替えなら次の工事、保全なら次の点検、量産改善なら一定期間の稼働データが評価の起点です。実証計画は実案件の予定と合わせます。

まとめ

製造業のデジタルツインは、現実の対象、データ、デジタルモデル、分析、現場の行動をつなぐ仕組みです。3Dモデルを作ることがゴールではなく、実務の判断を速くし、その結果を次の改善へ戻すことに価値があります。

  • 解決したい意思決定とKPIを一つに絞る

  • 用途から対象範囲、精度、更新頻度を逆算する

  • 設備1台や一つの工程で実案件を検証する

  • 現場で結果を使う担当者と手順を先に決める

  • モデルと現物の差を更新し続ける運用を作る

  • 効果を確認してから同種設備や別工程へ広げる

2D図面、点群、画像・動画など、すでにあるデータを起点にすれば、デジタルツインの土台となる3Dデータを用途に合わせて準備できます。取得・生成・軽量化・共有までの選択肢は3D.Coreの製品ページで確認できます。


3D.Core のサービス紹介資料をダウンロードできます。→ 資料ダウンロード


bestat 編集部について

bestat株式会社は、東京大学 松尾研究室発の産業用3Dデータに特化したAIスタートアップです。製造業・インフラ・土木の現場で、画像・動画・点群・360度動画など、現実空間で取得される多様なデータを高精度に3D化し、取得・生成・処理・活用までを一気通貫して支援する「3D.Core」シリーズを開発・提供しています。

https://bestat-data.com/3dcore

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