#インタビュー
問いを羅針盤に、可能性を探し続ける
IE・雨宮秀仁氏が語るbestatへの期待

今回お話を伺った方
雨宮 秀仁 様
イノベーション・エンジン株式会社
インベストメント・パートナー
スタートアップ投資と事業会社の両面を知り、数多くのIPOを支援してきたJAFCO出身の雨宮秀仁様。投資家として数多くのスタートアップと向き合ってきた雨宮様が共鳴したのが、bestatという会社が持つ一つの問いでした。「自分たちは何者なのか」——。その問いを羅針盤に、可能性を探し続ける姿勢。今回のbestatへのシリーズA投資では、共同リードVCとして加わってくださいました。bestatのどこに可能性を見たのか。bestat代表・松田尚子がお話を伺いました。
※本文中、敬称を略させていただきます。
「なんでもできるAI」は、何もわかっていない
松田:雨宮さんは、数多くのスタートアップを見てこられていると思うのですが、最初にbestatを見つけてくださったとき、どんな印象でしたか?
雨宮:プロダクトを出してすぐ、くらいのタイミングでしたね。まだお客様もほとんどいない状態で、3D.Coreで撮影した車の3Dデータだけを武器に戦っているような段階でした。でも、面白いと思ったんです。
展示会に行くと「なんでもできるAIです」という会社が山ほどある。でも正直、そういう会社には、見向きもしないんですよ。何かが尖っていないということは、その業界・現場の深いところまで理解できていないのだと思っています。bestatは違った。「3Dデータ処理に特化している」という明確さが、最初からありました。それだけで、違うと思った。
松田:ありがとうございます。あの頃は本当に、とにかくお客様に会い続けていましたね。
雨宮:その後、半年くらいで自分たちで市場を見つけてきたんですよね。物を変えたというよりは、「これがはまる市場がどこにあるか」を探し続けて、ちゃんとはめた。そして1年以内に、手応えのある受注を取ってきた。これは、bestatのサービスが顧客のニーズをしっかり反映していた証だと思っています。
ペインとニーズのはざま。現場が今、動き出している理由
松田:bestatが向き合っている製造業や現場のある産業を、雨宮さんはどうご覧になっていましたか?
雨宮:ペインとニーズの「はざま」という表現を私はよく使うんですが、bestatが挑んでいる領域が抱える課題は、その絶妙なところにいると思っています。
インフルエンザだったら病院に行きますよね。でも風邪なら、まずは市販薬を飲んで様子を見ますよね。「困ってはいる、でもなんとかなっている」。今の現場の多くは、その“はざま”にいるのだと思います。
でも、そのはざまを一気にペインへと押し上げるトリガーがいくつかあった。採用難や、老朽化の問題です。こうした課題が、DXの波を経てじわじわと表面化してきた。現場の人間はずっとわかっていたはずです。でも、経営層や社会全体がそれを「なんとかしなきゃ」という問題として認識し始めたのは、ここ数年のことだと思っています。
松田:私もお客様と話していて、まさにそれを感じます。製造業や土木・建築・インフラの現場でも同じことが起きていて。設計図があっても、30年前のものは現実と乖離している。「今の現場」がデジタルになっていない限り、デジタルツインは成立しない、という話をしたとき、パッと表情が変わる瞬間があるんですよ。
雨宮:設計図と現況の両方があることが価値なのです。bestatが「今を撮る」ということをやっている意義が、そこにある。そしてDXやSaaSの流れがこの数年で土台を作ってきたことも大きい。「デジタル化しなきゃ」という雰囲気が業界全体に広がってきた今のタイミングに、bestatがいる。これは偶然じゃないと思っています。
敵が少ないところに、チャンスがある
松田:競合環境という観点では、どうお考えですか?
雨宮:「競合はどこですか?強みはなんですか?」という質問って、あまり好きじゃないんですよ。機能の違いと価格の違いだけで語り合うのは、消耗戦の始まりだと思っているので。
私が好きなのは、敵が少ないところにいる会社なんです。ニッチに見えても、そこを獲得できるかどうかが重要で。アメリカの大手AIがカテゴリーキラーとしてこの現場領域に来るかというと、来ないと思っています。言葉のローカライズだけじゃなく、現場の慣習や文化のローカライズが必要な世界に、大きなプレイヤーはそう簡単には入ってくることはできないし、してこない。bestatが挑んでいる世界って、まさにそういうところだと思うんです。そして、その世界で勝てる会社かどうかは、お客様のニーズを自分の言葉で語れるかどうかに尽きると思っています。

吸収し続ける経営者が、市場を切り拓くと信じている
松田:少し恥ずかしいのですが、雨宮さんから見た経営者としての私への評価も、聞かせていただけますか?
雨宮:まず、”天狗じゃない”んですよね。スタートアップの経営者って、どこかで「自分が一番わかっている」という感覚が出てくることがある。でも松田さんにはそれがない。
誰とでも、すーっと話せるんですよね。壁を作らない。しかも聞いてきたことをちゃんと吸収して、次の動きに変えていける。スポンジのようなキャッチアップスピードがある。それはやり続けてきた人間にしかない強さだと思っています。
何かをやり続ける人は、同じ状態に留まらない。常に変化しながらやり続けていく。松田さんはそういう人だと思っています。
私がかつて関わったアスカネットという会社の話をすると、最初はフォトブックも全然売れなかったんです。そこで「フォトブック」の意味を分解してみると、写真があって、“配る”というシーンがある。そのシーンを突き詰めていったら、卒業アルバムや竣工アルバムという全く別の市場が見えてきた。持っているものを分解して、お客様を分解して、「どこにはまるか」を問い続けた先に、拡張性が生まれる。bestatにも、その思考をずっと持ち続けてほしいんです。
松田:ありがとうございます。2024年から2025年にかけて、自分でも変化を感じています。「自分たちが何をやっているのか」が、少しずつ言葉になってきた気がしていて。
雨宮:そこが大事なんですよ。「自分たちは何者なのか」をシンプルに問い続けられるかどうか。ファーストリテイリング(ユニクロを擁する企業)は「早く売る会社」とも言える。Uber(配車サービスの世界的企業)は「ラストワンマイルを定義した会社」。同じ配車アプリでも、自分たちの持っているものをどう定義するかで、拡張性がまったく変わってくる。bestatも、その問いを持ち続けてほしいなと思っています。
チームビルディングと、2029年への期待
松田:今後のbestatに向けて、期待することを聞かせていただけますか?
雨宮:次の3年が、本当に重要だと思っています。コア技術があって、いろんな産業に展開できる可能性がある。上場も視野に入ってくる。そのためにやるべきことは、チームビルディングです。
事業を止めずに動かせる部長クラスの人材を育てていくこと。CXOでなくていい。バリバリやれる人間が3〜4人育てば、組織の骨格ができる。そこができれば、数字はついてくる。
松田:チームを育てながら、「現場を理解するAI」として世界の産業現場に変革をもたらす。その両方を同時に進めていかなければと、改めて感じています。
雨宮:DXの波はすでに来た。そして今、AIの波が押し寄せている。その中で、SaaSやSIerという構造も変わっていく。現場を本当に理解している会社が、この時代を動かしていく。2029年、bestatがどんな景色を見ているか、今から確信を持って楽しみにしています。

編集後記
「自分たちが何者なのか」。この問いが、今回のインタビューを通じてずっと頭に残っています。
雨宮さんのお話を聞いて改めて思ったのは、答えは常に、動き続けた先にある、ということでした。困ったらお客様に会え。ニーズとペインのはざまを見続けろ。それはすなわち、市場の声を通じて、自分たちの「何者か」を形づくっていく作業なのだと思います。
雨宮さん自身が「フォトブック」の要素分解で体験してきたこと、そしてUberが「ラストワンマイル」を定義したこと。どちらも、持っているものをとことん問い続けた先に、拡張性が生まれた話です。その問いを、bestatも続けていく。
bestatはまだ、その問いの途中にいます。でも、「3Dデータで現場をデジタルに繋ぐ」という軸は、少しずつ言葉になってきている気がしています。この問いをとことん続けた先に、実現したい未来がある。そう確信しながら、前に進み続けます。

